木樽とステンレス

「このワインは樽が効いている」など、ワインショップやワイン好きの方がよくクチにするフレーズがありますが、樽がワインにもたらす効果というのはどのようなものがあるのでしょうか。

木樽がずらっと並べられて熟成されているワイナリーの光景を写真などで見たことのある方も多いと思いますが、実は、全てのワインが樽熟成されるとは限りません。

他にもコンクリートタンクなどもありますが、今回は、木樽とステンレスタンクによる熟成の違いについて少し説明させて頂きたいと思います。

まず、最初にお断りしておきたいのは、安いワインに木樽を使用することはコスト的に難しく、逆に高級ワインは木樽を使って造られることが多いという事実はありますが、木樽で熟成したからいいワインという訳ではありません。

ステンレスタンクは、木樽よりも管理しやすく、コスト面でも優れていますが、なぜコストが高く、取り扱いが難しそうな木樽での熟成が行われているのでしょうか。

まず、木樽での熟成の効果として一番に上げられるのは、木は切られた後も呼吸するため、木目から酸素が入り込みます。
ワインはこれによって木樽の中で呼吸し、酸が変化して、香りや色、味わいが深くなっていきます。

また、木樽のタンニン分が溶出してワインに深みを与えて、樽の香りもワインに個性を与え、より複雑な香りを楽しむことが可能となります。

このように適度に酸素と触れさせることで、ワインの旨味が濃縮されて厚みのある味わいになりますが、だからと言って、何でもかんでも樽を使えば良いかというわけでもありません。

ブドウの品質があまり高くなくて、風味がそれほど強くないのに、樽の風味をしっかりと効かせてしまうと、樽の味しかしないワインとなってしまい、「樽負けしている」となってしまいます。

それ以外にも、あえてステンレスタンクを使用して熟成をする場合もあります。
例えば白ワインの熟成にはステンレスタンクを用いることが多く、ワインやブドウ由来の本来の味を発揮させたい時に使われることが多くあります。

空気を通さないステンレスタンクは酸化を防げるうえ、タンク自体を低い温度に管理することが可能となり、ブドウの特長をしっかり出したフレッシュな味わいのワインに仕上げることができるからです。

ブドウの中には、品種による特長よりも栽培地の環境によって個性を発揮するものがありますが、そのような個性を引き立たせる場合にも、ステンレスタンクが最適です。

つまり、木樽熟成はワインをまろやかにしたり、深みを与えたり、樽香をつけて複雑味を出したい時などに行われ、ステンレスタンクでの熟成はブドウの特長を引き出したい時に選択されることが多くなります。

それぞれの熟成法によっての香りや味わいの特徴や違いについては、別の回で具体的にご紹介させて頂きたいと思っていますが、風味や味わいに「バニラ」「ナッツ」「バター」「リッチな」などが説明されていれば、樽熟成による風味。
刺身、カルパッチョ、生牡蠣に合うと説明されていれば、ステンレス熟成の可能性が高いと思って頂ければと思います。

もちろん、「リッチな」と表現されていても、それは高級や贅沢であるという意味ではなく、あくまでも風味成分の種類が多いタイプということなので、それぞれのシーンや好みで楽しんで頂ければと思います。