THE SUITE
ソムリエ
鈴木 昌武
こんにちは。THE SUITEの鈴木です。
「リンゴで買い込みチーズで売り込め」
ヨーロッパでは大航海時代以前の商人の心得を説いた逸話があります。
この話の意味するところは、「生のリンゴに合わせて美味しいワインは本物だが、どんなワインであってもチーズに合わせればさらに美味しくなってよく売れる」というものです。
甘味と酸味が強い果物とワインの組み合わせは、意外と難しく、ワインの味を硬質で薄い味わいに感じさせてしまう果物と合わせても美味しいワインは良いワインである。
一方でチーズは、渋みを穏やかにして、ワインをより豊かでフルーティーに変化させてくれるので、廉価なワインはチーズと一緒に売り込めという、食品に関する組み合わせの古来から現代まで通じる原理原則を説いています。
「その土地のワインとその土地の料理を合わせろ」
多くの文化圏において、ワインは晩餐の食卓で中心的な役割を担ってきた長い歴史があり、地域のワイン製造や料理芸術の伝統を含め、長い年月をかけて発展してきたものなので、郷土の料理とその地のワインとの幾世紀にもわたる関係から、今日では「模範的」と見なされている多くの組み合わせが誕生しています。
それぞれの地域で作られる食べ物がその土地で造られるワインと合わないはずがないという道理で、イメージとしては、日本酒と刺身、ビールとピザが合わないわけがないというものです。
今日でも語られることのある格言「白ワインは魚に、赤ワインは肉に」は、肉は一般に重い食品で、しかも赤い色を呈しており、白ワインよりも重い赤ワインを合わせた方が良い、魚は一般に軽い食品で白系の色合いで、しばしば白ワインを合わせるものとされてきましたが、現代ワイン製造において様々なワインのスタイルが普及しているため、この格言はいくらか時代遅れかも。
それよりも、現代では食品やワインの専門家の多くは、食品とワインの組み合わせにおいて、食品の「重さ」とワインの「重さ(ボディ)」を合わせるとバランスが取りやすいという考え方が主流となっています。
例えば、カベルネ・ソーヴィニヨンのように重くて豊潤な赤ワインは、例えばキッシュのように軽くて繊細な料理を圧倒してしまうので、牛肉、ラム肉、ジビエなどのうまみや脂分の多い料理や風味の強いチーズと相性が良い。
逆に、ピノ・グリージョのような軽い飲み口の白ワインには、滋養豊かなシチューや濃厚な肉料理だと圧倒されてバランスが取りにくいため、淡白な魚のカルパッチョやマリネなどのさっぱりした料理と好相性といった通説です。
ですが、味覚は教科書的に完璧な組み合わせが、万人にとって必ずしも楽しめるものになるわけではなく、どのようなワインとどのような食品を組み合わせても楽しみを享受することは可能です。
次回、「異なるものは惹かれ合う」のワイン格言から「料理とワイン」についての続きをご紹介させていただきたいと思います!